alphabox CX Watch 第二弾「車のサブスクリプションサービスにおけるCX向上」を公開

本調査の特徴・背景

本調査では、車の定額制サービス(サブスクリプション/リース)において、生活者との下記関係をADKの「Customer Equity Valuator(顧客資本測定)プログラム」の2つの調査(*1)によって、コミュニケーション接点から実サービスまでの地続きの体験(=フルファネル)の中で明らかにした。
 ①どのようなコミュニケーション接点が契約決定に影響しているか。
 ②契約前から契約過程、契約後における一連の体験の中で、サービス推奨者を生みだす要因は何か。

*1. Customer Equity Valuator(顧客資本測定)プログラム
・見込客の獲得から顧客のファン化までのプロセスで、顧客行動を促進する体験把握のための調査プログラム。EXPM調査と顧客体験調査からなる。
・EXPM調査:見込客の獲得について、顧客が特定ブランド(カテゴリー)を購買/契約するまでのジャーニーを4つのステージに分類(銘柄決定ステージ)。どの段階を重要視し、具体的にどのような接点の情報を参照し、購買に至るかを明らかにする調査。
・顧客体験調査:顧客のファン化について、顧客が購買/契約前後における体験のうち、どのようなものの影響を受け、推奨者(ファン)/批判者となっているかを「推奨度」を活用して明らかにする調査。

また、車の定額制サービスにおける背景として、下記2点を補足する。
①本調査のスクリーニングにおいて「2年以内に新車を入手した人のうち定額サービスを利用している人」をサンプルとしたが、定額サービスを利用しているのは、新車を入手した人の5.8%とわずか。
②定額サービス利用者は、若年層が相対的には高いが、実数としてはミドル・シニア層が多い。

主な調査結果

(1)「入口型」と「出口型」。2つのビジネス戦略

車の定額制サービスの契約決定に影響している接点を探る調査から、2つのビジネス戦略が明らかになった。一つはTVCMを始めとした様々な広告媒体で「サブスク」を認知させ、契約までのジャーニーにおいて、早い段階で指名買いの創出を狙う「入口型」。もう一つは契約時の説明段階で支払いの選択肢として提示し、利用者のニーズに応え成約を高める「出口型」である。

契約までのジャーニーにおいて、車の定額制サービスとして重要なステージは「日常ステージ」と「購入ステージ」であった。(図1参照)さらに各ステージでの参照接点としては、下記のように参照順に続く。
 日常接点:営業スタッフの説明、テレビCM、販売店の店頭広告やパンフ
 購入接点:営業スタッフの説明、サービス取扱会社のWeb、販売店の店頭広告やパンフ

(図1)

上記結果は、各社のコミュニケーション戦略が影響しているものではあるが、大きく2つに分類できると考える。一つはTVCMや幅広いデジタル広告など、大規模な投資を実施する戦略であり、代表的なA社(図2参照)において、日常ステージにおける受動的に得た情報の重要度と参照度が高いことからも推測できる。一方でTVCM含め広告投資が少ない戦略をとっているB社の場合(図3参照)、購入ステージにおける重要度および参照度が他のステージと比較し突出して高い結果が得られた。

(図2)
(図3)

これらから、同じ車の定額制サービスでも提供する企業によって、契約までのジャーニーの早い段階で指名買いを狙う「入口型」と契約時の説明段階で支払いの選択肢として提示する「出口型」の2種類のビジネス戦略が存在することが分かった。

戦略の優位性という観点からは、一見「入口型」が、新たなリードを獲得できるという点で勝っているように思われがちだが、広告投資という点においては、従来のブランド/車種訴求に加えて「車のサブスク」を認知させるための大きな投資が必要となってくる。反対に「出口型」は広告投資を従来訴求に集約できるメリットがある。また一時は「入口型」に新規顧客が流れる可能性もあるが、カテゴリー全体としての認知が高まるにつれ、同様にサービス利用者を獲得できると考えると投資効率は高いと考える。

(2)シンプルなはずの「定額制」。不満を生む要因にも

車の定額制サービスにおいて、「価格や支払いに関する体験」は、上手くいけばサービスに対する満足度を高めるが、失敗すれば不満をも多く生み出してしまう二面性がある。原因はリテラシーの高低と考える。

車の定額制サービスの一番の特徴は、その名の通り、利用料金が毎月固定されていることである。一般的に車を購入しようとする場合、車両代、重量税、自動車保険(自賠責、任意保険)、法定点検・車検などが諸経費としてかかってくる。そのため、一つ一つを調べ、積み上げて検討する必要がある。だがこの定額制は、それらの費用が基本的には全てコミコミなため(*2) サービス利用者にとって大きなメリットとなっている。

サービスへの推奨度に対しても、一番影響度が高いのは「価格や支払い」に関する体験という調査結果であった(図4参照)。詳細を見ると、あたりまえではあるが「支払い額が毎月一定」「定額以外の諸経費がかからない」といったサービス根幹に関する項目が、推奨者を生みだす要因となっている(図5参照)。しかし一方で、同じ体験において「月々の支払が高い」と感じさせるマイナス要因となりうることも本調査で明らかになった。

(図4:EmotionTech CXを活用したジャーニーマップ分析)

※上記分析の算出および表現方法は、株式会社エモーションテックが保有する特許技術(第6176813号)に基づく

(図5)

この差は一体何に起因するのだろうか。それは購入経験の有無や情報リテラシーの影響が大きいと考える。先にも述べたが、車を通常購入しようとすると、様々な諸経費を積み上げて検討する必要がある。情報リテラシーが高い(あるいは購入経験がある)生活者は、積み上げ型の料金と定額制の料金を比較しながら、本当に自分にあったものはどちらかを取捨選択することができる。結果、満足感は高いと考える。一方、情報リテラシーが低い(あるいは購入経験がない)生活者は、そもそも税金や保険の金額感覚がないため、月額を見た時に車両価格に対して高いと感じてしまう。

一見シンプルなはずの「定額制」ではあるが、実際、その構成要素は通常の車と同様に複雑であるということが認識されないままになっているのである。

*2 「費用が基本的には全てコミコミ」=各社のサービスによって含まれている費用は異なります。

(3)販売店への来訪は「答え合わせ」。重要な営業スタッフの役割

 生活者は、実際は複雑な料金体系によりオンライン上の情報収集において「自己解釈」や「情報の取捨選択」を迫られる。リテラシーの十分でない生活者にとっては、「これで本当に正しいのか?」という不安が付きまとう。カギは「答え合わせ」。検討者の肩の荷を下ろす営業スタッフの役割が重要。

サービスへの推奨度に対して、「価格や支払い」に次いで影響度が高いのは「販売店での相談や見積り、申し込み」の体験であった(図4参照)。詳細としては、「営業スタッフの説明で安心して契約ができる」「営業スタッフに相談ができる」「営業スタッフの説明がわかりやすい」などが、特に影響が高い(図6参照)。

(図6)

前述の通り、一見シンプルなはずの「定額制」ではあるが、実際は様々な諸経費も含むため、通常の車と同様に複雑である。オンライン上ではメーカー(サービス提供社)側からの情報発信以外にも、一般のユーザーや評論家、Youtuberなどから様々な情報が入手できる。しかし、オンラインによるこういった体験よりもリアルな営業スタッフとの体験による影響度が高いのは、一体なぜだろうか。

ここでも(2)と同様に、リテラシーの影響が大きいと考える。WebやSNSで様々な情報が入手可能な現代において、仮に情報リテラシーが高かったとしても、そこにはある種の「自己解釈」が介在するはずである。ましてリテラシーの十分でない生活者にとっては、何が自分にとって適した声なのか、「情報の取捨選択」が非常に難しいだろう。

そのため、販売店における営業スタッフとの相談が「自己解釈に対する答え合わせ」や「情報の取捨選択へのアドバイス」と機能して、訪問者の肩の荷を下ろすという重要な役割を担っていると考える。

 

まとめ

車のサブスクサービスにおけるCX向上のためには下記3つが重要である。

(1)車ビジネス全体で「サブスク」の役割を定義する
「車のサブスク」サービスにおいて、現状はリード創出を狙う「入口型」と成約を高めるため支払い形態として提示する「出口型」という2つの形態が見受けられた。車の定額制サービスという新しいビジネスではあるが、生活者にとっては「車利用」の選択肢の一つでしかない。そのため、車の販売と定額サービス、あるいは中古車販売や場合によってはカーシェアなど、展開する車利用サービス全体の中で「サブスク」の役割を定義することが重要と考える。生活者にとっては、仮に車の購入から離脱した場合でも、「サブスク」やカーシェアが受け皿になるかもしれない。生活者のジャーニーをサービスでつないでいく全体設計があるべき姿と考える。

(2)若年層獲得は「車の料金」に対する理解促進から
「車のサブスク」の評価が二分するその料金体系。原因は生活者のリテラシーの高低であった。「車のサブスク」は企業側の若者層獲得を狙いとする意図もあるが、若年層がゆえに車購入経験がない(少ない)場合、「車の料金」に対する予備知識不足から納得感が得られずに、満足度の低いユーザーを生みだす傾向が高いと考えられる。対策としては、広告コミュニケーション、Webコンテンツ、サービスを連動させながら、「車の料金」への理解を育てるCX全体設計が重要と考える。

(3)営業スタッフが担う提供価値を見極める
「車のサブスク」も実際は通常の車と同様に複雑な料金体系であるがゆえに、生活者はオンラインでの情報収集において「自己解釈」や「情報の取捨選択」を求められる。リテラシーの十分でない若年層にとっては、「これで正しいのか?」という不安が常に付きまとう。販売店の営業スタッフは「答え合わせ」により、そのような不安解消の役割を担っている。企業側の理想形としては、サイト訪問やWeb上での問い合わせなどジャーニーをデータによって可視化することで、来訪者が期待する「答え合わせ」に寄り添う事が重要と考える。



―調査概要―
目的:車の定額制(サブスクリプション/リース)サービスにおいて、生活者のどのような接点が購買に影響しているか、さらにはどのような体験がサービス推奨者(ファン)を生みだす要因となっているか。コミュニケーション接点から実サービスまでの地続きの体験(=フルファネル)の中で明らかにする
調査対象:20歳~69歳男女
サンプル数:合計533サンプル
 1.過去2年以内に新車を入手した人で、「定額制サービス(サブスク・リース)」を個人利用として契約・利用している人
 2 .主要10ブランド利用者
調査方法:インターネット調査
調査時期:2022年12月9日(金)‐13日(火)
調査委託先:株式会社インテージ

自動車

CXディレクター

水俣 暢夫

顧客視点・企業視点の両面から企業のCXを支援。広告会社のメディアプランナーとして培った顧客・市場分析の経験や幅広いメディアに精通した知識から、顧客インサイトを踏まえたCX設計により企業のビジネスグロースを推進。

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