コンサルティングとマーケティングの“融合”から生まれる新しい顧客体験――異なる価値をつむぎあわせるalphaboxのこれまでとこれから

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コンサルティングとマーケティングの“融合”から生まれる新しい顧客体験――異なる価値をつむぎあわせるalphaboxのこれまでとこれから

日本アイ・ビー・エム(本文ではIBM)とADKマーケティング・ソリューションズ(本文ではADK)によって、2019年に創設されたコンサルティングユニットalphabox。

テクノロジーやコンサルティングにノウハウがあるIBMと、マーケティング・クリエイティブを専門とするADKのノウハウを結集し、顧客体験の価値向上を起点に企業変革を推進していく独自のコンサルティング事業を共同事業として展開している。

結成して4年目を迎えたalphaboxのこれまでの活動、今後の展望について、alphaboxをリードしている二人、IBMの高田晴彦氏と、ADKの藤田岳志氏が語り合った。

alphaboxとは?
テクノロジー/コンサルティングに強みを持つ日本IBMと、広告戦略/マーケティング支援のADKマーケティング・ソリューションズによって、2019年に創設されたカスタマーエクスペリエンス(CX)/デジタルトランスフォーメーション(DX)コンサルティングユニット。テクノロジーとマーケティングの両面からCX/DXを設計し、企業の新たな価値創造を支援する事業を展開している。
* alphaboxは株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ の登録商標です。

IBMとADK、異なる専門性を持つメンバーが集まることで生まれた価値

ADKマーケティング・ソリューションズの藤田岳志氏と日本アイ・ビー・エムの高田晴彦氏

alphaboxは、2019年2月14日に結成してから丸3年が経つ。この共同事業の設立経緯と、これまでの歩みを探る。

藤田 共同事業の開始は2019年ですが、実際にはその前に準備検討期間がありましたね。お互いの事業領域がまったく違うので、手探り状態ということもあり、試しに一緒にプロジェクトを一つやってみようということになりました。初めての案件は日用消費財メーカー様でしたが、IBMのプロジェクトにADKがジョインする形で一緒に提案を行うところからスタートしました。

高田 事業内容もカルチャーも異なる2社が組むのですから、当然ながらいろいろな戸惑いに直面しますよね。当時のことをどのように振り返りますか。

藤田 まずお客様企業への提案のアプローチが大きく違うことに驚きましたね。たとえばお客様企業への提案一つとっても、ADKでは、事前にアイデアや答えをじっくりと考えることに非常に労力を割きますが、IBMの提案ではロジックやフレームワークを丁寧に整理することを重視します。この違いを意識していなかったので、提案書があまり作り込まれていないような印象を受け、ちょっと不安に感じたのを覚えています(笑)。
逆にIBMから見たらADKのやり方に違和感を感じていたのかもしれませんが、私たちにとっては新鮮な驚きでした。

高田 私はalphaboxの当時は経験していないのですが、前職では広告業界におりましたし、自身の経験からも仰ることはとてもよくわかりますね。広告会社はアイデアからの一点突破を狙い、コンサルティング会社は網羅的な整理を通じて間違いのない意思決定に至ることを狙います。同じお客様企業の課題に対してアプローチが違い、それぞれ異なる価値を持っていることが極めて面白い部分で、私がコンサルティングとマーケティングの融合をキャリアとして歩んでいることの理由でもあります。
ここで違和感からスタートできたというのはひょっとしたらalphaboxにとって大きな意味があったかもしれないと思います。異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まって生じる違いが新しいものを生むわけですし、そうでなければ協業する意味はありませんので。

藤田 同感です。その上で、その違いを持つメンバーが同じ目標感を持つこと、一緒になろうという姿勢が大切ですね。
トライアルにおいては、現場のメンバーは業務提携について知らない状態だったので、余計に戸惑いが大きかったはずですが、チームの中は総じて良好な関係でした。みんながプロジェクトを成就させたいという気持ちがあったので、相手の異なる価値観や進め方を理解しようと一所懸命取り組んだことで、乗り越えていったと感じます。

高田 それまでの自分のやり方に照らして間違っている、のではなく、相手が異なるやり方を持っている、と受け入れるための前提条件ですよね。その上でそこに気づきや発見、可能性を感じる瞬間がなければ協業は続きません。alphaboxの場合は、これも早い段階で獲得できたように思います。

藤田 金融機関様の「次世代型店舗検討」プロジェクトがそれにあたりますかね。一般的にこのようなプロジェクトではITの検討がメインになりがちですし、実際にIBMの業務検討・オペレーション設計・システム導入のノウハウは大きな価値を発揮しました。
一方で、ADKからは生活者起点で店舗コンセプトを設計するアプローチをとりました。銀行の利用者は多様ですから、シニアの方が大半という住宅地の店舗もあれば、都市部に構えてサラリーマンの方が休憩時間に来るような店舗もあります。そこで一律に同じ店舗を展開するのではなく、利用者や立地に合わせた細やかな店舗コンセプトを立て、業務・システムの検討と融合させました。結果的にはお客様企業のIT部門とマーケティング部門、双方からとても高い評価をいただくことができ、最初に手応えを感じることができたプロジェクトでした。

高田 この3年間の協業を通じ結果的に、これまであまりお話をいただけなかったプロジェクトを多くご相談いただくようになりました。たとえば商業施設のリブランディング、ソーシャルメディアの活用や立ち上げ、IoTサービスのクリエイティブ開発やコーポレートブランディング案件など、かつてはIBMになかなか声がかからなかったようなプロジェクトも増加しています。
私たちの強みは課題解決に向けて、業務プロセスやITソリューションといった“仕組み”と、生活者の心を動かし行動を促す“仕掛け”の両方を備えるところで、これによってお客様企業のマーケティング変革を実現できることにあります。ありがたいことに、そこにご期待いただけるお客様企業のご相談が増えていることが、この共同事業の3年間の成果を示していると考えています。

藤田 はい、そして単なる協業ではなく、両社のよいところが融合していくことで、私たち自身もプロジェクトを通じて成長していることを実感します。たとえばADKも、これまでのアイデア・アウトプット重視に加えて、フレームワークやプロセスを取り入れてきました。これはお客様やプロジェクトメンバー間での目線を合わせ、コミュニケーションを効率的にする効果もありますが、形式知としてナレッジを蓄積する意味もあります。実際に、学んだノウハウを活かして、大型案件を獲得するような成果も生まれてきています。alphabox以前はコンサルティング会社と組んで提案していたものが、自分たちだけでもできるようになり、かつノウハウとしても残っていく、これも共同事業の大きな成果といえるのかなと。

alphaboxの概要

高田 お客様企業の事業環境は複雑化しており、課題の範囲は広がっていく一方です。もはや、マーケティングやITという個別のケイパビリティでは対応しきれないでしょう。 私たちはこの事業体を通じて、IBMとADKの両社のノウハウ・アセット・人材、CXに求められる全てをご提供できる。alphaboxは法人ではなく、共同事業のブランドであるわけですが、このような形態をとっていることは結果的に、お客様企業への提供価値を最大化することにも役立っていると考えています。

コロナ禍やDXの進展を受け、3年間で変化したCXに関する課題

ADKマーケティング・ソリューションズの藤田岳志氏

コロナ禍でDXが加速し、その延長線上でCXやマーケティングの変革が起こっている。ここへきてあらためて問われているのが、「CXとはなにか」ということだ。今、CXはどのような課題を抱えているのだろうか?

高田 CXは、時にはUX(ユーザーエクスペリエンス)の上位概念と捉えられたり、チャネルをまたいだUXを横断する概念と考えられたりしがちです。それは一部では正解かもしれません。
一方で私たちalphaboxは、それ以上にCXを「生活者と長期的な関係を築く」ことを目的とした、「体験価値の設計とその提供」と考えています。これを実現するには、プロダクトやサービスの利用だけでなく、その前後の広範なカスタマージャーニーに目を向けて、顧客軸で活動を統合していくことが必要です。また、それを支える組織や人材、業務プロセス、システム・データ基盤も必要です。
つまりは全社的な取り組みが必要になるわけですが、コロナ禍を経て、このような顧客体験を起点に全社横断型の取り組みをしていくプロジェクトが着実に増加している印象があります。これは近年の大きな変化ですね。

藤田 一方で二極化も気になります。たとえば内需の減少や少子高齢化など、コロナ以前から企業の事業環境は深刻になっていたわけですから、これに備えて早期に取り組めていた企業では全社横断的なプロジェクトが進んでいるように思います。一方で、CXという視点ではなく、課題領域を既存の枠組みに合わせて細分化してしまい、結果としてプロジェクトがうまく進んでいないケースも多くみられるようになってきました。

高田 CXをEnd-to-Endでサポートできるパートナーがまだそこまで多くないのと同じように、お客様企業においても顧客軸で横断・一気通貫の体制を作ることは課題ですね。要因の一つとして、共通の指標やKPIの不足があげられます。
ここ数年、CXを事業戦略の柱として掲げたり、専門部署を設置するケースが増えましたが、「目標設定、そして検証をどのように行っていくべきか悩ましい」というお客様企業の声をいただくことが非常に多くなっています。ここが解決されないと、既存の組織・業務が担う目標達成への二次的な役割に留まってしまったり、局所的なデジタルチャネルのリニューアルといった範囲に限定されてしまう懸念がありますね。

藤田 ここを乗り越えているお客様企業では、自社のブランド・事業ビジョンが明確です。ある企業様においては、部署や役職に関係なく、誰に聞いてもビジョンが一緒でした。部門同士ではそれぞれ利害関係もあるでしょうが、基準が明確なため、最終的には正しい意思決定ができていたと感じました。
プロジェクトとしてCXの指標を策定する際にも「ここは外せない」という点が明確になって、結果的にほかの企業や産業と異なるCXのあり方やKPIに落とし込むことができました。全社一丸としてCXに取り組む際の必要条件ですね。

高田 企業によって異なるミッション・ビジョン・バリューを掲げるわけですから、CXの定義も各社異なるはずです。私たちはCXに関する定期調査「alphabox CX Watch」を開始しましたが、その目的はまさにこのような問題意識に基づいています。
自社独自のCXはどのようなものか、業界それぞれに異なる生活者の動態や企業に対する期待値はなにか、CXを高めることが経営的にどんなインパクトがあるのか、そのようなことを考える上で必要になるヒントや客観的なデータなどもご提供していくことで、お客様企業のCX推進に役立っていきたいですね。

独自定期調査「alphabox CX Watch」

藤田 横断体制や共通指標は、ますます一般的なものとなっているフルファネル型のマーケティングにも極めて重要です。従来の広告会社はアクイジションファネル、つまり生活者の興味関心・認知をどう獲得するかということが中心でしたが、最近の広告案件では「新規顧客を獲得するために、既存顧客をどうしっかり把握するか」ということが当然のように重視されていますし、エンゲージメントファネルも含めてフルファネルで対応する、つまりCX視点がますます大事になってきています。

高田 IBMの視点からいうと、従来は商品やサービスを利用する段階での課題を解決し、体験をどう高めるか、ここにテクノロジーをどう活用するかというプロジェクトが主流でした。ところが近年のようにDXが進んでいくと、既存事業の変革だけではなく、新しい市場に向けた商品・サービスを創造していくわけですから、どうやって使いたいと思ってもらえるか・ユーザーになってもよいと思ってもらえるかという段階から体験を作り込まないと、まず手に取ってすらもらえません。
利用の前後に広げ、大きく3つのステージでCXを定義すると、必然的にそこにはオウンドチャネルだけでなく広告やSNSといったタッチポイントも加えた包括的な体験設計、つまりフルファネルでの戦略が必要になってきますね。

alphaboxのCX領域

藤田 これをやろうとすると、徹底的な生活者視点に立つことを起点にして、さまざまなチャネル・テクノロジーとデータを横断してプランニングしていく必要があります。ここはまさにADKとIBMが協業している意義、両社が補完してお客様企業に提供できる価値の部分だと思います。加速しているフルファネル型のマーケティングへの対応という意味でも、私たちalphaboxへのご期待はますます大きなものになっていると感じます。

「unexpected」な価値創造に向けたこれからのCX/DX

日本アイ・ビー・エムの高田晴彦氏

今後、企業が差別化された価値を生み出していくには、CXやDXの取り組みが欠かせない。これからのCXの変化とalphaboxの未来について、藤田氏と高田氏はどのような展望を持っているのだろうか?

藤田 お客様企業とCXについて話していると「今ここにあるペインをどうすれば解消できるか」という話になりがちです。もちろん、課題や難点は解消しなければなりませんが、ペインだけに主眼を置いているのも私は問題だと思います。
CXのもう一つの側面として、expectedとunexpectedという2つの考え方があります。解消するべき課題に対処するのは「期待通り、これを求めていた」というexpectedですが、「期待どころか想像もしなかった」というunexpectedのCXはほとんどないのではないかと考えています。このunexpectedを提供することこそ、企業の新たな価値創造やDXにつながるのではないでしょうか。
現在は、企業間の差別化や優位性を確立しにくい時代です。そこを突破するのがDXで、DXを生み出すのがunexpectedだと思うのです。これまでの延長線上ではなく、ジャンプするイメージですね。
たとえばシンガポールのDBS銀行は、銀行でありながら不動産や自動車を販売するなど、自らをテクノロジー企業と位置付けて業務プロセスや顧客サービスの改善に取り組みました。こうした形で今までにないものを作り上げるという姿勢が、今後のCXにとって大切だと思います。

高田 ロジカルに思考を積み上げていくときには、誰を主語にしても成立してしまうような、同じ答えに辿り着いてしまわないように注意を払う必要があります。徹底的な生活者目線に立ち、そこに潜む課題とカスタマージャーニーに這わせて自社のサービスを拡張していこうとする取り組みは、自社の視点に立てばとても斬新・革新的なものだと思うかもしれません。
しかし当然ながらその空いていた領域にはまた異なる既存の事業者が存在するわけですし、生活者の視点に立てば、これだけ選択肢が溢れている時代になぜわざわざそのサービスを利用しなければならないのかという感覚になります。たとえば銀行が子育て支援サービスに乗り出す、生活者から見たら「なぜ銀行に子どもの教育のことを相談しなければならないのか」という理由を作り込まないと腑に落ちないでしょう。結局のところ、自分たちは生活者に対してどういう存在であり、その認知をどのように変えていくのか、新たなブランディングをどう打ち立てていくかという点に戻ってきますし、CX/DXの最も大事な点と考えています。

藤田 延長線上ではなく、発想を飛躍させてunexpectedなCX/DXを実現するには、生活者視点に加えて、こういう未来を作りたいという自分視点での発想も重要となります。その例としてはアート思考があげられます。ADKのお客様企業でも、あるメーカー様はかねてからデザイン思考に取り組まれていましたが、今年に入ってからはそれに加えてアート思考の取り入れに挑戦されるなど、さまざまなお客様企業で取り組みが進んでいます。 alphaboxでも昨年10月、IBMが持つデザイン思考のノウハウとADKのアート思考を融合した新サービス開発メソッド「Innovation FISH」について発表しました。未来志向が求められるサービス開発プロジェクトに適用し、実際にさまざまな新たなアイデア発想に活用されています。
デザイン思考やアート思考はイノベーション創出の一つの手法ですが、unexpectedを生むためには、こういった新たなやり方も取り入れていく必要があるでしょう。

高田 IBMにとっても、こういったunexpectedへの挑戦は大きな意味があります。私たちの根幹はテクノロジーカンパニーであることですが、現在はまさに、テクノロジーが社会や企業、人々の生活をどうよい方向に革新していくかが問われている時代です。どうやって生活者が思いもつかない価値を創造し、お客様企業と生活者の新しい関係性を作っていけるかがますます重要になってきています。
そしてここに取り組んでいるのがalphaboxです。CXを起点にDXを推進し、ユーザーの心を打つようなテクノロジーの使い方を次々と提案・実践していける存在を、これからも目指していきたいですね。

藤田 ADKにとっては、これまで広告会社という業態でしたが、これからは顧客価値創造企業としてマーケティング全体、つまりお客様企業の商品・サービスのコミュニケーションだけでなくその価値作りから関わるという点で、こういったunexpectedに取り組んでいくことに意味があります。
生活者のすべての側面をカバーできる新しい顧客体験作りを、両社の融合をさらに高めることで、一気通貫でやっていきたい。 CXに必要なすべてを提供する、alphaboxとしての挑戦を続けていきます。

<筆者欄>

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
alphaboxマネージングディレクター
藤田岳志氏

クレジットカード会社でデータドリブンマーケティングを担当した後、ベンチャー企業でマーケティングのコンサルタントに従事。その後ADKに入社し、マーケティング・プランナーとして数多くのクライアントおよびプロジェクトをリード。2017年からはマーケティングのDXに取り組み、2019年より現職。

日本アイ・ビー・エム株式会社
インタラクティブ・エクスペリエンス事業部 パートナー 兼
alphabox マネージングディレクター
高田晴彦氏

国内コンサルティング会社、総合広告代理店グループを経て現職。カスタマーエクスペリエンス全体の戦略設計を起点に、サービス開発・業務改革・プラットフォーム構築・グロースハックなど、顧客フロントの変革、マーケティング領域のデジタル・トランスフォーメーションに求められる一連のコンサルティングとソリューションを提供。日本IBMと広告代理店ADKとの戦略的協業体「alphabox」の共同代表を兼務。

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